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●DMC
=10title=
素直になれない>
・振り向かないで
・書置きだけは残して

回想>
・変わらないもの

=拍手SS=
・心地よい夏





























「あーつーいーっ!!!」
全てに濁点が付くような声は力の限りに叫ぶ。
Devil May Cry のネオンがかかる店はエアコンなど付いておらず、いや、付いていたのかもしれないが、
いつか天井を破壊したときに一緒に壊してしまった。
真昼間から赤いソファでごろごろしているダンテは、汗をかいた肌に張り付く皮の感触が気持ち悪く、上半身裸の状態だ。
テメンニグルの件が終わってからはや数ヶ月。
色々あって今彼はバージルと同居し、テメンニグルにすんでいた魔物の中で、己が使役できたいくらかの魔物はこの街に住んでいる。
ネヴァンはどこに住んでいるかは知らないが、取り敢えず生気が必要だとたまにダンテを訪ねてくるし、アグニ&ルドラは実は向いに住んでいる。
奴らも人形をとるとまるで色違いの双子で、怖いといえばなんか怖い。たまに首が落ちるのがポイントだろうか。
その他もろもろでいたりいなかったりするが、そんななかの一匹が今この家に住んでいた。
「離せ主よ!」
「暑苦しいのだ!」
「我らは抱き枕ではあるまいぞ!!」
次々に三つの頭が文句をいうが、ダンテはぎゅーっと子犬のような状態になっているケルベロスを抱きしめている。
「だってよーお前ら冷たくて気持ちがいいんだよ」
ケルベロスは氷の属性を持つ悪魔だ。
短い毛ですべすべと肌触りも気持ち良いし、ケルベロスは自分の体温が下がるのが駄目らしくて直ぐに凍りだらけになっていたりする。
しかも今はダンテの事務所で飼う・・もとい、住むことになったため身体を小さくしているので、抱き心地としては最高だ。
ダンテはほお擦りするとその冷たさに機嫌を良くする。
「熱い!!」
「主!我らは体温が上がると弱るのだ!!」
「嫌がらせではあるまな!!?」
じたばたと短い足でもがいているのが妙におかしくて、ダンテは笑いながら三つの頭を撫でてやる。
悪魔とはいえそういうところは犬的な感覚が強いのか、それには少し心地よさげにこすり付けてきた。
とはいえやはり熱いものは熱い。
しかも何が哀しくて裸のガタイがいい男に抱き疲れなくてはならないのだろう。
まぁその答えは簡単だった。
「ったく、それにしてもバージルの奴どこにいったんだろうな。お前ら本当に知らないのか?」
今日は今朝から双子の兄であるバージルが出かけている。
その所為で暇で暇で仕方が無くて、冷蔵庫を見ても昨晩バージルに絡んで飲み明かした所為か酒も入っていない。
暑さをしのごうとシャワーも浴びたが、やっぱりケルベロスが冷たくからかい甲斐もあり、いい退屈しのぎだ。
その3等首の犬が口々に「知らん」とはもり首を振る。
「あうーつまんねぇー」

ああ 暇だ。


「昨晩絡んだから家出したのかも知れぬぞ」
「すとろべりーさんでーなど無いものねだるからだ」
「それはそうとそろそろ我らも限界だ」

そういえば昨晩酔ったとき、久々にストロベリーサンデーが食べたくなって騒いだ気がした。
あまり覚えていないあたり、結構な量を飲んだのだろうが・・。
そうとうやかましく強請っていた気はする。

「は・・はは。確かにあれはうぜぇかも」

呆れた笑いを漏らした瞬間、家側の扉が開く音がする。
うわさの彼だ。
後ろでんひ戸を閉めると、バージルはばっとこちらを見た2匹もといダンテとケルベロスにのけぞった。

「おっ、おかえり!バー・・・」

「「「良く帰られた大きい主!」」」

ケルベロスは勢い良くバージルの胸に飛び込むと、慌ててバージルは落とすまいとキャッチする。
シャツの上でグルグルと喉を鳴らして頬擦りするさまはまさに子犬のようで、振り払おうにもためらってしまったようだ。
「なんだ、お前らは?」
しかし怪訝に眉根を寄せると、バージルは手に持っている荷物の所為で抱えるのが面倒になり肩に担ぐ。
「「「死ぬかと思ったのだ」」」
口をそろえて言うそれの意味が良くわからなかったが、バージルは「煩い」と耳元でハモる奴らを制する。
そのままケルベロスはバージルの頭に乗るとおとなしくなったが、早々の煩さに呆気にとられているバージルへ今度はダンテ。
「バージル俺もっ!」
どさくさに紛れたつもりか彼も両腕を広げて抱きつこうとするが、バージルはその頭をがっしり掴む。
「ふざけるな、馬鹿者が」
「ええー、なんでだよ!お前ら俺だけ拒否するってどういうことだ!?」


「「「「お前は暑苦しい」」」」

今度は1人+3頭でハモられ、ダンテはっぐ・・と押し黙る。
しかし僅かに俯いたかと思うと、わざとらしく目じりに涙を溜めて「ちくしょー」等言ってみせる。
「ひでぇ!俺だけ仲間はずれかよっ!」
「とはいってもな・・・お前真夏に裸体の男が抱きつきに来れば拒みもするだろう」
「う・・・、じゃ、じゃあケルベロスはどうなんだよ!バージルには何でひっつくんだ」

「おっきい主は冷たいのだ。心地良い」
「煩くないし抱きつかぬ」
「大きい主は服は脱がん」

「・・・うぅ・・・こんな犬ころにまで・・・」
なんだか軽く自尊心を傷つけられたのか、ダンテは思わず肩を落とす。
すねているのは瞭然に伺え、ダンテは勢い良くソファーに腰を下ろすと「ふん」と口を尖らせた。
「ちぇ、いいさ別に、独りはなれてるからなー」
「・・・ふぅ」
それに小さく溜息を吐いて、バージルは頭を抱えながら奥へ荷物を置きに入ってゆく。
そのまま暫く出てこないので、益々ダンテは切なくなり、一体何をしているのかと伺おうと腰を上げた。
が、その時奥の戸が静かな音を立てて閉まる音で、こっちに来ていると気づき慌てて座りなおす。
「?何をしているんだお前は」
あまりに慌てて座ったせいで、半分くらいしか身体がソファに乗っておらず揺れている。
不思議な体制に首をかしげるバージルに恥ずかしげに苦笑すると、バージルは肩を竦めた。
薄いとはいえ、長袖の白いシャツをきっちり着込んでいるバージルに、よくも暑くないものだと思うが、確かに彼は体温が低く何時も冷たい。
ダンテは横に立つバージルの裾をくんと引っ張って腕へ額をつけると、その冷たさに心地よく瞳を閉じた。
「うわー本当にひんやりしてる」
しかしぐりぐりとそのまま額を押し付けてくるダンテをバージルは引き剥がす。
「暑い。俺で冷まさずこれでも食べていろ」
「へ?」
瞳を大きくして首をかしげるダンテの前へ、先刻買い物してきたらしいものをトンとテーブルへ置いた。
「ストロベリーサンデー??」
その通り。
目の前に置かれたソレは蓋がしてあるが、アイスがぎっしり入っており、イチゴもたっぷり乗っている。
生クリームをストロベリーソースが飾っていて、見た目にもかなり美味しそうだ。
ダンテは驚きつつも嬉々として蓋を開けると、幸せそうに口へ運ぶ。
「わ、うめっ。サンキュ、バージル!なにこれ、わざわざ買ってきてくれたのか?」
ニコニコと尋ねる彼の向かいのソファへ腰を下ろしながら、「ああ」と短く返す。
「毎晩あんなに騒がれてはたまらないからな・・覚えているか?耳元で大音量で騒いだのを」
「う・・そんなにでっかい声だったかな・・悪い。でもマジ嬉しいぜ」
「それは何よりだ」
ため息混じりに返答するバージルに、少し罰悪げに笑う。
「これ、どこの?持って帰れるところなんてあったっけか?」
「ああ、買い物ついでに知り合いの店で・・」
  知り合い?
とダンテは思わず首をかしげる。この街に来てそう長くは無いだろうに・・。
そしてハタと思った。
「もしかして、作った・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・図星だな」
「黙れ。喰ってろ」
「くっ・・ぶふっ・・・!」
「笑うなっ!」
つい噴出したダンテに珍しく顔を紅潮させて怒鳴るバージルだが、ダンテは最早なみだ目で笑っている。
「だ、だって・・!そっか、買い物ついでに材料買ったのか!あははは」
勿論不似合いというおかしさもあるが、嬉しさと相まって笑いが止まらない。
あまりにダンテが笑うので、「もう知らん!」とソファーへ乱暴に座ると、バージルはよそを向いた。
「ああ、ごめんごめん!いや、嬉しかったからさ、なっ。バージルも食おうぜ」
「いらん。甘いものは苦手だ」
「そういうなって、ほら」
あーんと目の前に差し出され、払いのけようにも危なっかしい。
仕方なくスプーンをつかんで口に入れると、甘い香りはやはり苦手だが、冷たさが心地よかった。
「・・まぁまぁだな」
自分で作ったこともあってか、フムと満足げに頷く。
人間界へ帰ってきてからはめっきり自分が食事係だが、才能が有るのかもしれない。
そんなことを考えているのは知らないが、ダンテも随分と穏やかになったバージルに満足げに笑った。
「あれ、ところでケルベロスは?」
「ああ、冷凍庫に入れてきた」
「へぇそう・・・て、冷凍庫!!?」
はぁあ!?と思わず頬張ったばかりのアイスを噴出しそうになるのをこらえて尋ねなおす。
バージルは「落ち着いて食べろ!」といつも通りに小言を言いながら、頷いた。
「ああ、随分弱っていたからな。何、死ぬことは無いだろう。元々氷属性なんだ」
「そりゃあそうだけど・・そうか・・うーん・・まぁいいか」
時折兄貴は不思議なことをする。
それがまた無愛想ながら愛嬌だとも思うが、ダンテは内心笑うと、このなんともいえない平和感にそっと瞳を伏せた。

夏は嫌いだった。
冬も嫌いだけれど、暑くて、また冬とは違った虚無感がある。
独りだという感覚より、何もいない、何も無い、ただダルダルと過ごすだけの日々が続くから。
けれど今は・・暑いけれど、誰もいなかったときのようなうだるような暑さではなくて、なんとなく楽しいというか幸せを感じる。
いつもならダラダラ暑さしのぎに寝るだけだったのに、からかう相手もいれば、なんだかんだと気遣ってくれる相手がいて、
こんな風に一緒に会話をする相手がいる。

またゆっくり瞳を開けて、それを口に出していうには恥ずかしいが、ダンテは幸せそうに微笑んだままアイスを口に入れた。
甘くて冷たくて。
  あ、なんかバージルに似てるかも。
「なんていったら怒るよな」
「何がだ?」
独り言を聞き取ってしまった兄に苦笑し、「なんでもない」と返す。
しかしバージルは首をかしげ、ソファから少し腰を浮かすとダンテへ手を伸ばした。
眉根をよせて呆れたように溜息を吐きながら、すっとダンテの頬を指先が掠める。
「ついてる」
「あ、わりい」
「どうしてお前はそう行儀が悪いんだか・・・」
手のクリームをふき取りながら、小言を言うバージルに恥ずかしげにダンテは肩をすくめた。
やはりなんだかんだと面倒見がいい。
昔からそれだけは変わらなかった。


このなんでもない平和が 日常が 何より愛しい。



  ずっとこのままであれば良いのに・・。

「なぁバージル」
「なんだ」
「・・・・・いや、何でも」
「?」

やっぱり、それを言いはしないが。


「側にいてくれれば・・それでいいかな」
ぽつりと、今度は本当に誰にも聞こえない程度に呟いて、ダンテはバージルと視線をあわせると「な?」と問いかける。
良くわからないが、なんとなくそれに「ああ?」と頷いて、バージルは首をかしげた。
するとダンテは段々涼しくなってきたらしく、ふんふんと機嫌良く鼻歌交じりにスプーンを進めた。

「さーて、喰ったらケルベロスの散歩でも行くか」
「本格的に犬扱いだな」
「犬だろ」
「犬だな」

「一緒に行こうぜ」

「・・・・ああ」

相変わらず短い返事は冷たく、だけど心地よく穏やかに。



ああ 平和だ―








Fin...


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