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●DMC
=10title=
素直になれない>
・振り向かないで
・書置きだけは残して

回想>
・変わらないもの

=拍手SS=
・心地よい夏





























それは綺麗な花瓶だった。
半透明のガラスに細かい花の絵が彫られている観賞用の花瓶。
父が気に入っていたことは知っているし、また母も好んでいたことは、何時も丁寧に扱われているのが
解る曇りのなさから知っていた。

そんな無残な残骸を見つめ、佇む銀髪の幼い双子が一組。
「ど、どうしよう?バージル」
まだ10かそこらの双子の弟、ダンテは、ドキドキと怖がっているのがわかる震えた声で兄へ尋ねた。
「さぁな」
対して兄・バージルは非常に冷静な声だが、重い溜息交じりに眉根を寄せる。
視線を足元に向ければ、やはりそこには無残としか言いようがない。
花瓶は粉々に砕け飛び散り、最早『花瓶だった』と過去形にしてもわからない有様だ。
両親が、多分今一番大切にしているのではないかと思うソレをこんな風にしてしまったことは、二人にとって
きっと、いや絶対に怒られるという恐怖を与えていた。
別に殴られたりなんかは一切ない。
ただ、父の静かな怒気は底知れないし、母は普段優しい分、余計に怒った顔を際立たせるのだ。
今は幸いとして二人とも出かけているが・・。
「なぁなぁなぁ・・・!なんかないのかよ?」
よほど混乱しているのか、ダンテはうろうろとしながら慌てふためいている。
横目にそれをうっとうしげに見ながら、バージルはムッと困ったような苛立つような表情をした。
「少しは自分で考えたらどうだ?」
「考えてるさ!バージルこそ『さぁな』なんて酷すぎるだろ」
「・・・・・・」
  元はといえば、ダンテがリベリオンなんて振り回すからじゃないか。
ふとやたら自分に文句を言うダンテへ言い返してやろうかと思うが、それも兄という意識の強いバージルは、
自分が止められなかった責任もあるかと飲み込んでしまう。
益々眉根を寄せるバージルを、何か怒られないいい案を出してはくれないだろうかとジーっとダンテが見つめる。
しかしハッと、大きな青い目が、いかにも『思いついた!』といわんばかりに開かれた。
「バージルバージル!」
「?」
「ほら、母さんが何時も言ってたじゃん」
「なんだ?」
母に言われていることなど沢山ある。その大半はダンテに向けてだが、確か「開けたら閉めなさい」「使ったら直しなさい」
とか・・あとは―
  あ。
「「壊したモノは直しなさい!」」
二人仲良くはもると、何でこんな当然なことを忘れていたのだろうと苦笑する。
他の同い年の子供に比べれば断然大人びているバージルも、親に怒られるかもとなると少々冷静ではなかったらしい。
しかし、どうしたものだろう?
「かなり粉々っぽいけど・・・」
「接着剤で一枚ずつつけるしかないが・・粉になってしまった分はどうしようもないな」
取り合えず、大きな破片をかき集めて形を合わせよう。
そういって、怪我をしないように慎重に破片部屋の隅に集めてゆく。
パズルみたいに組み合わせて見るが、何れも似たり寄ったり。せめて花柄も半透明ではなくしっかりと色が分かれていれば
いいものを、どうにも難しい。ダンテが余りに悩みうんうんと唸るもので、バージルがあわせてダンテに接着剤でくっつけさせた。
1枚、2枚、3枚・・・。
「お・・終わるわけ?これ?!」
「黙ってやれ。やるしかないじゃないか。怒られたくないんだろ?」
「うぅー・・あ!俺達半分悪魔なんだしさ、魔法とかでちょちょっとできないかなぁ」
「取り敢えず俺は魔法など使えたためしがないがな」
折角またぴこんと見えない電球を頭に浮かべて提案したダンテの言葉を一蹴し、次ぎの破片を渡す。
むぅっと、今も今後も変わらない口を尖らせすねる姿を見ると、バージルは呆れたように息を吐いて一つ頭を撫でてやった。
「ほら、時間が無いんだから急げよ」
「・・うん」
珍しい行動に驚いているダンテへ、素気なく何事もなかったようにバージルが言う。
一つ頷いてまたくっつけだすと、ダンテはふと首をかしげた。
「?時間が無いって?」
「二人とも、夕方には帰って来るって言っただろう?」
くんと顎先で壁にかけてある時計を示すと、時刻はもう4時を回っている。後1時間あるかどうかだろうか。
それに気づいて更にアワアワ落ち着きを失うダンテだが、それでも今度はしっかりと手を動かしている辺り、いざとなればちゃんと
する奴なんだなと改めて認識する。
だが更に時間が迫ってくると、流石にバージルも焦りだした。
「ダンテそっちを貸せ」
「ま、待って、ちょっと接着剤が手に・・・」
「ああもう何をやっているんだお前は!」
「わーんっ、痛いって!!引っ張るなよ」
「後10分もないんだぞ?いいのか怒られても」
「い、嫌だ!とにかく早く・・」
「ダンテ、足音がしてきたぞ?」
「わーっ!」
わたわたと混乱しだした現場はとにかく何でもいい、くっつけろ!な状態になってきている。
ダンテが残り僅かの破片を接着している間にバージルはほうきで粉を適当に散らすと、とりえず何もなかったようにしなければと
まだ何か破片などが散っていないかを見回した。
が、そのまま入り口で視線が止まる。
「だ、ダンテ!」
「終わった!」
「ではなくて・・」
「え?」
ダンテが振り返る先、バージルが見つめる先には、ポカンと固まっている両親の姿。
「お・・おかえり」
バージルは一先ず箒を小さな背に隠し、ダンテはシャキッと立ち上がる。
スパーダとエヴァは暫くじーっと二人を見つめた後、その後ろでいびつに、そう、まるでいつかスパーダが本で見せてくれた、
日本の昇り竜のように積みあがったガラスの集合体を見た。

  アレは隠しているのだろうか?
「こ・・これはこれは・・また見事なオブジェだな・・」
スパーダはじわりと込み上げる笑いに口を押さえながら、立ちつくしているエヴァへ「アレはばれないと思っているのかね?」と尋ねてみる。
いかに人の心を持つ悪魔といえど、人間にすら不思議な子供の行動はわからない。
しかしエヴァはそれに答えず、花瓶の残骸から目をそらすとダンテとバージルを交互に見つめた。
「ダンテ・・バージル?」
静かに呼ばれた名に、二人の肩がびくっと同時に動く。
やはりばれたのか、怒られるのか。
ダンテはうぅっ・・と内心涙を流し、バージルはそれなりの説教を覚悟した。
駆け寄るエヴァが怖くて、ぎゅっと目を閉じる。
「・・・・・・・・・・」
しかし、閉じていても一向に怒声がかかる気配もなく、また手を上げる気配もなかった。
ただふわりと、暖かく柔らかい感触が身体を包み、二人とも驚いて目を開く。
「母さん?」
最初に見えたのはエヴァの綺麗な金髪だった。ぎゅうっと強く、けれど優しくエヴァは二人を抱きしめている。
不思議そうに問うバージルを見ると、ゆっくりとその腕を解き、床に膝を着いて二人と視線を合わせた。
膝についた白い粉を払ってやって、目じりにたまった涙を拭ってやる。
そこまで少し強張った表情をしたいたが、一つ二人の頭を撫でてやると、ほっと安堵に微笑んだ。
「よかった・・怪我はないわね」
酷く穏やかで、とても優しくて、あの静かな声も驚いた表情も、心底自分達を心配したいたのだとそこで知る。
バージルとダンテは少し戸惑ったように視線を合わせるが、改めてエヴァを向き「うん」と一つ大きく頷いた。
それを確認して、またエヴァが本当によかったと柔らかい銀の髪を撫ぜる。
心地よい母の手に、ドキドキとしていた心臓はゆっくり落ち着きを取り戻して、そしてこんなにも優しい母に隠そうなどとした
自分達を反省する。
「ごめんなさい」
二人重ねて母に心からそういうと、エヴァはにこりと微笑んだ。
「二人がちゃんと無事なら、それでいいのよ」
「でも・・」
「でも、2度目はないわよ」
「はい」
さり気に最後の言葉は背をひやりとさせたが、あえてそこは聞き流そう。
エヴァは奥で膝と手を洗ってきなさいと二人が洗面台へ向うのを見送り、横についたスパーダと目が合った。
「やれやれ、子供とは解らないものだね。隠したり素直だったり・・」
「あら、でもああやってちゃんと謝ることを覚えてくれて、私は嬉しいわ。花瓶は残念だけど・・」
ちらりとまた一番上のほうがゆらゆらと揺れている『昇り竜』に、エヴァは小さく苦笑する。
横でまたスパーダがツボにはまったらしく横を向いて笑っているが、彼は「そうだね」と肩をすくめた。
「まぁ色々と芸術的かもしれないがね。エヴァが言うなら直しても構わないが?」
「・・・・・直せるの?」
「魔界の代物だからね。私も悪魔だし・・」
  そんな事初耳・・と、エヴァは少しだけ考える仕草をとるが、「そうね」と一つ頷く。
「このままにしておきましょう?あの子達が大きくなって、いつか見せてあげたいもの」
クスクスと冗談交じりに笑いながら、スパーダも確かにとまた笑う。
しかし、少し高い棚の上にあった花瓶をどうやって割ったのかと二人は首をかしげると、転がるリベリオンに視線が行き頭を抱えた。
その時にダンテがひょこりと顔を出して、バージルがまだそのままにしてあった花瓶に首を傾げた。
「捨てないの?」
「ええ、折角の二人の素敵な作品ですもの、ね?」
同意を求められて、また笑いそうになったスパーダは「ああ」とかろうじて一言返す、バージルはまた良く言うなと内心苦笑したが、
ダンテはソレが褒められたのだと素直に受け止めたらしく上機嫌にはしゃいでいた。
はしゃいで転がっていたリベリオンに躓き、前のめりにスライディング。
そして近くの本棚にクラッシュ。
「・・・・お前は・・」
呆れと疲れに、バージルがぐたりと項垂れる。
散乱した本の下から顔を出すと、ダンテもガクリと肩を落とした。勿論その後はしっかり怒られ、本をまた
どうやったらそうなるのか、螺旋階段のような、または絶対何か仕掛けがあるといわんばかりの凹凸。
そんな不可思議に芸術的なつめかたをした彼に、今度はしっかりとお説教をするエヴァと、スパーダが腹を抱えたことは言わずとだろう。









「まさかお前、アレを本気にした所為でこんな奇怪なセンスなのか?」

ポツリと呟いたのはアレからどれくらいたった頃か。
バージルは久方ぶりに一つの家で暮らしだした兄弟の仕事場を見回すと、小さく溜息をついた。
気に入りのローンが残る黒皮の椅子で、行儀悪く足をデスクへ投げ出しているダンテは彼を振り返り、その視線の先を見る。
壁一面に飾ったガンコレクションや悪魔の残骸、そして調子が悪いのか不安定に流れる音楽。
「・・・・?」
だがどれを見ても奇怪ともなんとも感じないダンテは、一体何のことやらと首をかしげた。
「・・お前のそのガサツさとセンスは変わらんな・・」
またガクリと落とされた肩にダンテは首をかしげて、一つ笑う。
「いいオブジェだろ?」

自慢げな笑顔はあの日のはしゃぎ顔と変わらず、バージルは小さく苦笑した。









Fin

コメント>>>
たまにはほのぼのをと・・・思ったんですが、お題違いな気がします(苦笑)
でも子双子かけて少し満足。パパーダがえらく笑い上戸なのは本人も分かりません(笑)
うん、でもやっぱり剥いているのはシリアスかな。どうしても台詞が増えてしまいました;
けど双子はこう、交互に隙間なく話してそうな気がしますよ!お兄ちゃんの突っ込みとダンテの間嫌いはこの時点で鋭いといい(笑)


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