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●DMC
=10title=
素直になれない>
・振り向かないで
・書置きだけは残して

回想>
・変わらないもの

=拍手SS=
・心地よい夏





























「ダンテ、父母出産前の講習会っていうのがあるんだけど」
「あ?」
今日もいつも通りに愛銃、エボニー&アイボリーの手入れをしているダンテに、トリッシュが大きな封筒を差し出した。
彼女が言ったとおり、A4が入る封筒には『父母出産前講習会』と記されているが、ダンテにはそれが何なのか今一つかめない。
首をかしげた彼へトリッシュは「だから」と繰り返し、一度銃の手入れを中断させた。
「子供が出来たのは分かってるんでしょう?」
「そりゃあ当たり前じゃないか。どれほど喜んだと思ってんだよ」
「じゃあ、出産がどんなのかは知ってるわけ?」
「・・・・・・そりゃあ・・こう・・・すぽーんと」
「馬鹿者めが」
間を空けジェスチャーを交え答えたダンテへ対し、トリッシュは以前敵対していたときのような鋭い言葉を返す。
ダンテは一瞬「っぐ・・」とひるむと、「で、結局なにが言いたいんだ」と罰悪げに口を尖らせた。
いくつになっても変わらないその仕草に、トリッシュはため息混じりに頭を抱える。
「まぁこれはあれね、子供を生んでからのことが多いと思うけど・・育て方だとか、接し方だとか、色々あるでしょう?
そういうのを事前に医師が指導してくれるんじゃないかしら」
「ふぅん、いいんじゃないか?行ってこいよ、トリッシュは人間界でのことは分からないだろうしな」
「貴方も行くのよ」
「・・・・・・なんで?」
「父母って書いてあるじゃない。それに、私は貴方が言うとおりに人間界のことはしらないのよ、一緒にいてくれないと
少し不安なのよね」
肩をすくめて「そうでしょう?」と尋ねる彼女に、まぁそれも最もかとダンテは頷く。
「それで、いつなんだ?」
「今からよ」
「じゃあ行くか」
もっと早く言ってくれよと内心思うが、ダンテは文句言わずに作業途中の銃をすばやく片付けると、漸くローンの払い終わった
黒皮の椅子を立ち上がる。
するとトリッシュは慌てて出て行こうとする彼を引き止めた。
「ちょっとダンテ!まさかその格好で行く気じゃないでしょうね?」
「え・・・?」
彼にとっては至っていつも通りの、赤と黒が主体にされたロングコートだが、仕事着として普段使用しているそれは確かに外では異質
というものだろう。
都市の真ん中にある病院で受ける講習だというのに、その格好はあんまりだ。
「そうだな、まぁ・・確かに」
彼は奥へ入り着替えを済ませて漸く出発となった。




「へぇーっ、これが産婦人科??ほぉー」
なにやら非常に楽しげにきょろきょろとするダンテが恥ずかしくて、トリッシュは思わず頭を抱える。
ただでさえ銀髪で体格のいい、更にはやはり何処か異質さを放つその空気を纏うこの男は目立つというのに、子供のように
はしゃがれてはそれも極みというところだ。
取り敢えず引っ張るように急いで講習会のある部屋へと入ると、そこには同じように新しい母・父となるものが殆どを占めて
前のホワイトボードを囲むように椅子に座っている。
やはりここに来ても目立つ二人は、入った瞬間に注がれた視線にたじろぎながらも、こそこそと空いた席へと回った。
暫くして定刻どおりに講習会が始まると、講師らしい男が「ではまず」と一つ手を叩く。
「ここにいる皆さんは、殆どがこの出産で新しく母、そして父になられる方ばかりだと思います。
まずは子供のことも大切ですが、子育てというのは助け合い、周りの皆さんもどうかお友達になって、
互いに助け合っていっていただきたいと思います。
なので、まず自己紹介をしてもらいましょう」
それがこの病院での定番なのか、何度目かの出産の女性は慣れた様な口調で「はーい」と返しさらりと自己紹介をこなす。
そこから時計回りに順が回ってくるが、みな中々に好感のある、だが普通の自己紹介だ。
しかしダンテはそれを聞きながらトリッシュへ耳打ちする。
「あのさ・・俺こういうの苦手なんだが・・自己紹介って何をいうんだよ?」
「知らないわよ・・私だってそんなものしたことなかったし・・・」
トリッシュもどうやら困っているらしく、取り敢えず二人は他の人間の自己紹介を参考にすることにした。
「ええと、私は始めての出産で、名前をエルミーと言います。今の職業はデザイナーですが、子供が生まれたら子育てに専念したいので、
専業主婦へなるつもりです。よろしくお願いします」
かわいらしい声の女性、そして次いだ多分その女性の夫らしき男性も似たようなことをいい、ついにダンテへ順が回る。
取り敢えず似たようなことを言えばいいんだな!?と慌ててトリッシュへ確認し、それでいいんじゃない!?とまた慌てた返事が返ると、
ダンテは普段見れないほどおどおどと立ち上がり、あー・・と間延びした声で始めた。
「えっと・・俺は・・始めてのしゅっさ・・・」
「当たり前でしょうが!!」
ドカッとベタなボケをかましたダンテの足をさりげなく、だが思い切りトリッシュが蹴り上げる。
いっ・・・!!という悲痛の声をかろうじてこらえて、ダンテは改めて言い直した。
「あ、いや・・俺が生むんじゃなくて・・えっと何だ?あぁそうか、名前はダンテと、言います。
職業はデビルハンター。子供が生まれたら継がせます」
「・・・・は?」
講師とその場全員が思わず首をかしげポカンと見つめる。
そんな職業聞いたことは無いが、取り敢えず彼は『悪魔狩人』といったわけだ。
「えっと・・・それは・・職業、ですか・・?冗談ですかね?」
講師は一応疑念を晴らすべく丁寧な口調で尋ねるが、ダンテとしてはそこはもう長年してきた職業であり、
恥じることも隠すことも無いのではないかと、常識としては無い職業であることをすっかり忘れている。
首をかしげて
「いや、本当にそれが生業だぜ・・?」
「・・・はぁ、そう・・ですか・・・えと、では奥さんは・・」
「私の名はトリッシュ、元魔帝ムンドゥスの配下でした・・ええと・・子供が生まれたら・・取り敢えず今までどおりダンテのサポートを
続けたい位は思ってます・・」

「「はぁあ・・・!?」」

先刻より更に不明な言葉を言うトリッシュに、あたりは先刻より思い切り首をかしげる。
しかしやはり彼女とて同じ、否、彼女にいたっては人間界よりも魔界で育ったの方が長いのだから、忘れているというより知らないのかもしれない。
とにかくなんとなく、深く追求しない方がいいと思ったのか、講師はやや挙動不審になりながらも他の人間の自己紹介を進め、
次の講義へと移った。
取り敢えず無意識にも掴みは完璧だ。
彼らは誰の期待もはずしていない。
「うるせぇ、誰の期待だよっ」
・・本文へ突っ込むのは止めていただこう。

とにかく漸く講習へと入るわけだが、どうもこの講師は質問をし、返ってきた回答を聞いてから講習を進めていくらしい。
「さて、皆さん子供が生まれ、まず子供に教えることはなんでしょうか?しつけ、といえばそうかもしれませんが、
それ以上に大切なこと、または、もっと具体的なことを言ってください。
ではまず・・・そうですね、ダンテさん夫妻」
何故またそこを選ぶんだとその場全員が思ったが、どうも自己紹介のインパクトの影響らしい。
二人はさも当然のごとく、その質問へ答えた。
「「戦闘技術」」
綺麗にハモったそれに二人は相違が無かったことに満足そうだが、真剣にその答えが被るなど冗談以上に本気だ。
講師は益々何者なんだと、次第に本能的に彼らの可笑しさを感じてゆくが、なんとか平静を装い「それはまた何故・・?」と尋ねた。
「生き抜くためには必要だから」
「俺の息子だから」
切な願いなのか、というか生まれる前からすでに息子と分かっているのか。
何に突っ込むべきか分からないが、一体どういう状況にこの二人がいるのかつかめない。
「あぁ・・そう・・ですか。ですが、ソレは不正解・・ですね」
気を取り直して笑顔を作る講師は中々つわものだろう。
思わず受講者の何人かが小さく拍手を送っていたが、講師共々気づいていない。
しかしその不正解が気に喰わなかったか、ダンテが眉根を寄せた。
「じゃあ正解ってのはなんだ?」
「愛情ですよ」
「ああな」
それにはさらりと納得したダンテは大きく頷き、トリッシュはそういうものなの?と首をかしげる。
「愛情も何も・・私どこから生まれたかも定かじゃないわ・・まさかムンドゥスだったらどうしようかしら・・」
「そういえばそうか。いや、魔王からなんてそりゃねぇと思うけど・・まぁいいじゃないか、俺が愛情注いでるわけだし」
「はは、仲がよろしいですねぇ・・・・」
て、いうか・・・・―
どうでもいいが、この時講師がポツリと呟いた言葉を何人が聞き取っただろうか。

「あ、アンタ達に突っ込みは存在しないんですか・・・」

全くである。


取り敢えずその後はなるべく妙な状態へならないように講師が上手く話を進め、大体の講習は終わり始める。
最後に少しの実技があるとのことで、全員椅子から立たされた。
「さて、実はここについ数ヶ月前に生まれた私の息子達がいます。今回の実技は、彼らに協力してもらいましょう」
3人の、まだはいはいもままならない赤ん坊は実に愛らしく、講習者たちが皆かわいいかわいいと和やかな声を上げる。
トリッシュも何処か表情を柔らかくしているのを見て、ダンテは少し嬉しそうに小さく笑った。
自分が息子を持つという不安もあったが、彼女のことも心配だった。
なれない人間界での生活、確かに、自分と居るときはそれを感じることは少なかっただろうが、子供が生まれたらそうも行かないのではないか。
実際、生まれてくる子供達は確実にダンテと同じような力を持っているわけだろうし、そこら辺でも苦労は耐えないだろう。
そんなことを考えていると、ふ・・と妙な不安がよぎった。

「・・・まさかと思うけど、魔人で生まれたりしねぇだろうな・・・」
ぼそっと呟いたそれを何故か側におりしっかりとお聞きとってしまった講師は「!!?」と驚きを表情に表すが、きっと自分の聞き違いだろうと
繰り返し言い聞かせる。
普通そこまでするものじゃないのだが、何故かダンテがそう呟いたかと思うと、聞き違いには思えなかったのだ。
会って数時間も、それもずっと話しているわけではないというのに、この男の異質さは本能的に伝えるものがある。
取り敢えずそれは聞き流した更に次いでダンテは言った。
「なぁトリッシュ、腹とか突き破ったりはしないよな・・・・」
「当たり前でしょう?いくらなんでも・・・どう・・なのかしら・・・分からないわ・・」

否定しろよ!!

思わず内心で大きく裏手突込みをするが、こいつらに関わってはいけないと留まる。

何故だ!?何故こんなに不安を感じる・・・俺はベテラン講師だぞ!!??惑わされるな!きっとこいつらは、
いや、この人たちは出産の不安で妙なことを言っているだけなんだ!!

内ではかなり地が出始めている彼は深く深呼吸をし、改めて笑顔を作るとくるントと他の講習者を振り返った。
「さ、さぁ皆さん!実技をはじめましょう。まずは子供の抱き方、やはり生まれて直ぐに子を抱くことは嬉しいでしょうが、
生まれたばかり子供は首が据わっておらず、少々危険ですね!そこで、もうすっかりその心配のないこの子達を実際に
抱いてもらいます」
3人なので順番にですが、とつけたし、また時計回りに子供を抱かせる。
丁寧に頭や体の位置を教えながらの彼の実技講習は、彼が自身で言うようにベテランというものであり、分かりやすく
快適に過ぎていった。
元々女性はどこかで分かっているのか、教えずと基本はしっかりしている。
「はい、いいですね。もう少し首は上に、そうです」
「おとなしいですねー、私も早く、こんなかわいい子が欲しいです」
にこにこと赤ん坊特有の柔らかい香りを楽しんで、女性は講師へ赤ん坊を返しながら言う。
自分の息子だけあってそれはとても嬉しく、彼もまた和やかに微笑んでいた。
「ええ、すごくおとなしいでしょう?中々泣かない良い子なんですよ」
親ばかですねといいながら、次へとまわすべくくるりと踵を返す。
が。
一瞬で和やかな空気は彼の周りだけはじけ、地の引く音が微かに耳に届いた。
うわー・・こいつらに持たせなくねぇなー・・・。
そんな口の悪いこと、己の講師というプライドにかけていえないが、「ん」と腕を伸ばすダンテに少々ためら手しまう。
「く、くれぐれも!!注意して!ね???」
「ああ、大丈夫大丈夫」
思わず念を押して言う彼に、ダンテは怪訝に首をかしげながら講師の手から赤ん坊を受け取る。
しかし彼の不安に反し、ダンテの赤ん坊を抱く仕草はやけに慣れていて、驚きながらも安心した。
「あれ、思ったよりも随分と上手いですね。これは言うことが無いです。昔に何か経験でも?」
「ああ、前に友人の子供を良く抱っこしてたんだ。二人・・・3人くらいなら何とか持てるぜ?」
「へぇ、それはそれは・・いいお父さんになりますね」
少しだけこの人も人間だと感じると、ほっと安堵の息に微笑が漏れる。
ダンテは「んー」と赤ん坊の心地よい体温を感じながら、「懐かしいなぁ」と心底漏らした。
「ネスティを思い出すぜ。あいつ俺の髪の毛食いもんだと思ってたらしくて、良く引っ張って口にもっていってたんだよ」
「ああ、かわいいですねぇ。でもくれぐれも注意してくださいね、ホントに食べさせちゃ駄目ですよ」
「分かってるって!いくら俺が半魔でも、育ったのは人間界だぜ?それくらいの常識は持ってる」
「・・・・・・・・・・あ、そ・・そう、ですか」
あえて聞き流そう。
固まった微笑みのままに、これはやはり早々にわが子を返してもらおうとダンテの手からさりげなく子供を抜き取る。
ダンテは少し名残惜しそうにしたが、ふと講師の後ろに目を向けると、ぽかんと間の抜けた表情を見せた。
この男にそんな表情をさせるとは、一体何事だと嫌な予感がよぎる。
案の定。
「なぁ先生、赤ん坊ってのは、ああいう風に抱いていいのか・・?」
トリッシュよ・・魔界ではそういう風に子供を抱くのか・・・?
ダンテ自身も思わずといてしまったそれに、講師は、がばっ!と慌てて振り返ると、そこには肩と小脇に赤ん坊を抱えるトリッシュ。

いーやーぁあっ!!!

声にならない声を上げたことを誰も知らないだろうが、講師は心の臓口からコンニチワしそうなのを抑えて、
震える声でトリッシュへ近づいた。
「と・・と・・・トリッシュさ・・・ん??そ、それは・・ちょっと・・」
「はい?」
呼ばれてぐるんと振り向いたトリッシュに、更に叫びを上げる。
「あぁあっ!!ちょっ駄目!駄目ですっ!!動かないで下さい!赤ん坊はそうやって抱くもんじゃありません・・・っ!!」
その赤ん坊は乗り物にでも乗っている気分なのか、おとなしすぎるほどおとなしい。
恐る恐るトリッシュから一人一人子供を下ろすと、講師は肩で息をしながらトリッシュを怒鳴った。
「あぁのですねぇ!!あれは小脇に抱えるというのであって、抱いているわけではありませんから!」
「残念!」
「ダンテさん!!!」
思わず勢いで言ってしまったダンテを制すと、自分の子供がかかり妙な度胸を見せている講師はふとわがこの異変に気づく、
ぐでーと伸びているその様は、『酔っている』という現象に他ならなかった。
「・・・・・・・・・あぁ・・・」
もはや何をどういっていいのか、いや、こいつらをここにいさせていいのか・・。

だが俺はプロだ・・こ、この人たちも間違いなく新しい母と父になる人間・・人間?にんげ・・・いやそこはいいんだ。
そうではなく、こんな奴らをも正常に子育てが出来るように指導するのが俺の役目であり、今までにそれに失敗したことなど
ない・・そう、これは最早俺のプライドとこれから生まれてくる彼女達の子供の命を守るためのもであるんだ。

がんばれ 俺!!

俺がやらずして誰がやる。否。


「おーい・・先生、大丈夫か・・??」
独りぶつぶつと我が子の前に屈み言い続ける彼に、ダンテは不安げに声をかける。
流石に今のトリッシュの行動には自分も度肝を抜かれただけに、自分の子供が危機だったとあっては仕方ないことだろう。
すると彼はゆら・・と立ち上がり、かなり顔色は悪いものの笑みを浮かべ「大丈夫ですよ」と向き直った。
「さぁ、講習を続けましょう。実技はこれでおしまいです。後は簡単な出産時の説明をしたら解散ですよ」
あと少し・・あと少し・・あと少し!!
これほどまでの忍耐が自分にあったとは思わなかった。
彼は今後新たな道を開拓していくようだが、今は一先ずおいておこう。
そして本当にあとわずか、一つを残すところ。
「最後はおしめの変え方です。どうしたらいいのか、これはもう皆さんご存知でしょう」
この程度は知識として、詳しいやり方がわからなくても知っているはず。
しかしトリッシュは困ったように眉根を寄せた。
「・・立たせて下着はかせるのではいけないの?」
「ああトリッシュさん、このくらいの小さな子は、まだ自分で立つことができませんから」
「・・・・・・試してもいいかしら?」
「え・・・?」
嫌な空気が立ち込める。
駄目です!と何故そこですかさず断らなかったのかと思うが、トリッシュは既に3人の子供の前へ立つと、
ひゅ・・と空気が瞬間的に冷たくなった。
「 立て。」
バチンと当たりに電流が走ったような、嫌な感覚に当たり一同びくっと思わず、己が言われたわけでもないのに立ち上がる。
しかし講師は頑張って冷静にトリッシュへ近づくと「あの・・」と声をかけた。
「だから、そういうものではな・・・・・―!?」
目の当たりにした光景は、まさにミラクルといっていい。
「・・・た・・た・・立つのか!!??」
まだはいはいすらしなかった我が子が、よれよれとベットの手につかまり必死と立とうとする姿が妙に哀れましく、
まさに彼らは生命の危機を感じ本能で立とうとしているのだと以心伝心に伝わる。
講師はほろりとなりそうになるのを押させ、どうにかトリッシュをその場から離した。
「トリッシュさん・・・普通は、それはありえませんから・・・ね、自然に立つのを待って下さい」
「あらそう?仕方がないわね・・わかったわ」
何処か府に落ち無そうに頷く彼女に不安を抱きつつ、講師はその後スムーズにことを進め、時折ダンテ達がかわす奇怪な会話も鮮やかにスルーし、
漸く解散のときを向かえた。
そのときの召されるほど安らかな笑顔を、後に人々は賛辞するが彼はただ本当に開放感に心底漏らした表情でしかなかった。

「はい、これまで!!それでは皆さん、良い親となり、子供に存分に愛情を注ぎ、いい子に育ててくださいね!」
その言葉を終了の合図とし、各自解散をしてゆく。
それを確認しながら、講師はダンテ達へと声をかけた。
「ダンテさん、トリッシュさん」
「はい?」
「なにか?」
さも疲れたといわんばかりに振り返る二人に、講師は「こんちくしょう」と思ったかは定かでない。
だが彼は笑顔を保ったまま、ぽんと二人の肩を叩いた。
「あなた方の子供が無事に育つことを、心より願っていますから」
「・・・は?はぁ・・有難うございます」
二人して疑問符を浮かべるが、それにすっきりとした表情をすると講師は子供三人をきっちり丁寧に抱いて去っていく。
ダンテとトリッシュは互いに顔を見合わせると、「なんだったんだ」と首をかしげた。



それから数ヵ月後、無事に、通常通りに人間と同じく出産を遂げたトリッシュは、以前習ったとおりに泣く双子の子供を抱きあやしている。
ダンテは長い足を変わらず机に投げ出し新聞を読んでいると、「お」と声を漏らした。
「おいトリッシュ見ろよ、これ」
「何?魔界関係でも載っていたの?」
別にそればかりを見てるわけじゃない・・と内心否定するが、それはさておきダンテはとある写真と記事をとんとんと指差した。
そこには以前よりもたくましく、以前よりも穏やかに微笑む男性の姿。
「これ・・あの先生じゃないか?ほら、前に父母出産前講習会にいた」
「・・・?ああ!本当だわ、ええと、なんて書いてあるのかしら?」
「ええっと?ああなんか、子育て講習のスペシャリストだとよ。普通の産婦ならまだしも、なんか厄介なのを相手に教えてるらしいぜ。
常識が無いような奴とか・・あーとなんだ?障害者だとか精神的に難ありな奴の出産を正しく指導できるという・・・すごいんじゃないか?」
指でなぞりながら抜粋して読み上げるダンテの上に両手に抱えていた双子の独りを乗せ、トリッシュは「へぇ」と感心の声を漏らす。
「そんな度胸のある感じの人間には見えなかったんだけど」
「俺もそう思うぜ。記事によると前に色々と厄介な講習者がいたらしくて、その子供が無事に育っているというのを聞いて安心と共に
強い自信が沸いたそうだ。こういうきっかけってのは、あるもんなんだなぁ」
膝の上で同じように新聞を見つめる赤ん坊に「な?」と冗談めいて微笑みかけると、トリッシュもそれに僅かに微笑んだ。
「まぁでもこうして無事にこの子達も育ってるし、そういう人間に指導してもらったのは良かったのかもしれないわね」
「ああそうだな」
穏やかな時間が過ぎてゆく、これからもいい子に育ってくれることを願いながら、二人は「じゃあ」と立ち上がった。
「さて、基礎訓練、行くぜ」
「まずは体力ね」

やはりそこは、外せなかったらしい。








記事の端にほんの数行記された奇怪な文章を、彼らは最後まで気づかなかった。


『本当におなかを破って出てくる子供は居ませんし、まして半魔だとか人間界だからとか、そういう常識はずれは今後会わないでしょう』

『だから私はこれ以上のもに出会わない限り、最高の子育てを提供することが出来ます』

誰のことかは、恐らくあの講習会へ参加した人間は、ほぼ分かっただろうか。

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